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お会式桜が街を彩る秋の夜長の万灯練供養
池上本門寺 お会式
暑い夏が終わり、実りの便りが届くころ大田区の池上本門寺ではお会式(おえしき)が営まれます。
お会式とは
日蓮上人がご入滅なされた10月13日にあわせて行われる法要のことで、特に池上本門寺では、日蓮上人がお亡くなりになった時にお会式桜(ジュウガツザクラ)が咲き誇ったという故事から、12日には万灯を掲げ報恩をささげます。
いつもはおだやかな住宅街の池上もこの日ばかりは夜遅くまでお題目と万灯、そして30万人を超える人々でにぎわいます。
「御命講(おめいこ)や 油のような 酒五升」は芭蕉が詠んだ句ですが、御命講はお会式のことで、秋の季語とされています。まさしく本門寺のおひざ元ではお会式とともに本格的な秋の訪れを感じさせてくれる大事な行事となっています。
2017年、今年のお会式は日中気温が29℃まで上昇し、まだ残暑を思わせるような陽気でしたが、夕方には季語にふさわしい涼やかな風が吹きはじめ、池上本門寺へと歩みを進める人々の足取りも軽やかに感じられます。
午後7時、大田区中央6丁目付近の池上通りではもうすでに万灯を準備する風景が見られます。通りを飾る提灯と、笛、太鼓の音が見慣れた風景を変えていき、お会式にむかう歩みと共に少しずつ気分も高揚していくようです。
本門寺周辺では車はおろか、自転車も乗り入れができません。正面の参道に至っては初詣を思わせるような多くの人で、警察の方々による誘導も入念です。
本堂へと向かう人々の右側を主役の万灯が連なってゆきます。古くは提灯にお会式桜を添えた簡素なものだったそうですが、江戸の火消しが参拝するようになると、纏がおどるようになり、笛と団扇太鼓が加わると、年々賑やかになっていったそうです。
池上本門寺のお会式は他の万灯行事とは異なり、五重塔などの宝塔を紙で作られた花が明るく飾っているもの、人形や行灯をかたどったものなど、多種多様な万灯を数多く見ることができ、参道に腰かけ、万灯を見物するだけでも見飽きることはありません。
万灯と歩みを進めていくと、正面に加藤清正が寄進したといわれる長い石段が見えてきます。お会式の絶景スポットのひとつでもあるこの石段は下から見るもよし、上から見るもよしで、黒山と万灯の白く淡い光がゆらめいてとても幻想的です。
【注意】階段に上り始めてからはとても危険なので立ち止まったり、振り返って写真などは撮らず、石段を登り始めたら最後まで登り切りましょう。階段の上からの景色は参拝後に帰りのルートで楽しむことができるので、ここではマナーを守って前を見て、足元に気をつけながら、前に進みましょう。
正面には仁王門。勇壮な仁王像の間をきらびやかな門燈の列が通り過ぎてゆきます。ほの白い灯りに照らされた仁王像の幻想的な陰影にうっとりしながら、いよいよ大堂が間近です。その左手には空襲の焼失を免れた経蔵があり、一番古くからこのお会式を見てきたであろう建造物としてこちらも必見です。
次々とやってくる万灯とともに大堂の石段を上がります。
大堂には日本画壇の偉才、川端龍子による「未完の龍」を天に仰ぎ、仁王門の方を振り返ると僧の肩越しに美しい万灯。まさにサンクチュアリからの景色は厳かで、それでいて優しく自然と笑みがこぼれそうな何とも言えない雰囲気です。
このまましばらくこの空気に身をまかせていたいと思いながらも、多くの方が後ろでお待ちですので、日蓮上人に手を合わせ、心から平安を祈りつつ、大堂を後にします。
左手には江戸以前、桃山期に建立された日本で唯一の五重塔があり、その周辺には露店が多く、参拝をすませた方が食事にお酒にと各々に楽しんでいる光景が見られます。
五重塔を背に露店に挟まれた小道を行くと前述の石段からの絶景ポイントへ。ここもたくさんの人ですので、少し眺めて心に焼きつけたら後ろの方に譲ってあげましょう。聖域での欲張りは禁物です。
今年は大田区中央6丁目を午後7時ごろ出発。のんびり歩いて、ちょっと寄り道しておよそ2時間。夜9時を過ぎてもまだまだ参詣者も万灯の列も途切れることもなく、例年では深夜まで及び、長い夜となります。この日ばかりは子供たちも親公認の夜更かしです。
日蓮上人は「一身の安堵を思わば、先ず四表の静謐を祈るべし」(自らの幸せを願うなら、世の中の幸せを考えるべきだ)と説いたそうです。
お会式の帰り道、石畳の上で綿あめを片手に嬉しそうにたこ焼きを頬張る子供達のほほえましい姿を見ていると、にわかに平和であることのありがたさを実感してきます。
今日の笑顔のひと時は安国を願った日蓮上人のお心と、未来の平和を希求した先人たちの不断の努力のおかげだったのだと、そっと教えてくれているような夜長のひと時でした。